声にだして読みたくなるブログ

大村高広丨建築と写真を中心に、音楽、映画、美術、アニメ、人文学等について書いている備忘録です。

MAY28,2018_H. F. マルグレイヴ

○研究室の助教である片桐悠自さんが翻訳に参加された「現代建築理論序説: 1968年以降の系譜」( ハリー・F・ マルグレイヴ+デイヴィッド グッドマン著, 澤岡清秀監訳, 鹿島出版会, 2018.5)を読んだ。1968年以降の建築理論を網羅的に、かつ実証的に整理されていて、とても勉強になった。フランス現代思想周辺の話題も出てくるので、内容としては当然ハードコアにならざるを得ないところなのだが、著者による「理解している人」特有の説明のわかりやすさもあり、また翻訳も素晴らしくて文体も読みやすいので、さくさく読めてしまった。著者の知識量と強固な歴史的パースペクティブに脱帽である。個人的には、初期ポストモダニズムの成立過程、チャールズ王子の節、ポスト構造主義ポストモダニズムの間のズレ、に関する記述が白眉であると感じた。

最後の最後で出てくる神経美学の話は「?」という感じだったのだけど、ただ個人的には、以下のマルグレイヴの最後の記述にはとても感銘を受けた。いうなればこれは、近現代建築が散々のたうちまわった挙句の切実な教えではないか、と、率直にそう思った。

建築は ――建築理論が、しばしばそうあるべきだとしてきたような高度に概念的な営みとは程遠く――おそらく際立って感情と多感覚に基づく経験であり、組織化された生命体が自らに刺激を与える周辺世界に対して示す反応であると考えられる。音楽と同様、建築には感情的な反応を即座に引き出す能力があり、設計者がこのプロセスを深く理解できていればいるほど、より優れた(長く維持される)デザインとなる。(p.370)


ちなみに同著者による全史「近代建築理論全史 1673-1968」(ハリー・F・ マルグレイヴ著, 加藤耕一監訳, 丸善出版, 2016.10)もまた、「今生きている著者による歴史」感があってすごくよかった。900ページを超える大作だが、こちらもすいすい読める書籍になっている。ニコラス・ペヴスナーの「モダン・デザインの展開」、ジークフリード・ギーディオンの「空間・時間・建築」、レイナー・バンハムの「第一機械時代の理論とデザイン」、ケネス・フランプトンの「現代建築史」等々の代表的な建築史の書籍に加えて、本書も今後末永く読まれていくものになると思う(こちらはゼンパー論が白眉)。

 

基本的にぼくは、現在進行中の建築デザインの潮流にうまくノリながら、過去の建築家の実践や理論を「古い」と断絶する態度をとる人は共感できない(それがたとえうまくいかなかったものだとしても、だ)。しかし現在の若手が共有している感覚として、いわゆる「ポストモダン」なるもの、あるいは「理論」なるものに対してなんとなく引いてしまうような感じがあるのは事実だとおもう。

しかし、デコンストラクティビズムも、伝統主義も、90年代のプラグマティズムも、ニューアーバニズムも、ミニマリズムも、そして批判的地域主義も含め、あらゆる「主義(イズム)」の名のつくものを冷静にみつめ、それらが互いに切断されているからこそ部分的につなげ(あるいは部分的に切断し直し)、いま同時代的に共有している問題意識や設計の潮流とうまく接続しつつ、各々が潜在する効果を最大限引き出すように配置していく作業が、いまだからこそ必要であると個人的にはおもう。そう感じている同世代の建築関係者は意外に多いのではないかと、なにも確証はないが(知り合いも少ないし)、そうおもってもいる。マルグレイヴの著書はいずれも、そのような作業をおこなっていく上での見通しの良い視座を与えてくれる。それは間違いない。


鹿島出版会さんから出版される最近の翻訳本には、読み応えのあるものが多い。「20世紀建築の発明」(アンソニー・ヴィドラー著, 今村創平訳, 2012.6)とか、「アルファベット そして アルゴリズム 表記法による建築」(マリオ・カルポ著, 美濃部幸郎訳, 2014.9)とか、いずれもすごく面白かった。願わくばPier Vittorio Aureli、Robin Evans、Jacques Lucan、Peg Rawesあたりの翻訳が読みたいです、、切実に、、。

 

○写真がたまっていってるので、まとめて。

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(Leotax K, LEONON 50mm F2, 記録用 100)